セイナッツァロの役場

Saynatsalo Town Hall          1950-52

 セイナッツァロの役場はアアルトの建築の中で私が最も訪れてみたかったもの。セイナッツァロはフィンランド中部の街ユバスキュラの郊外、湖に浮かぶ島。深い森と湖に囲まれ、製材工場を中心に出来た比較的新しい小さな集落だ。この建築はそのコミュニティの中心施設として建てられた。

 役場、議場、小さな図書館、住宅、店舗という複数の機能がまとめられているが、決して大きな建築ではない。日本的感覚で言えば地方都市の公民館といった程度の規模。しかし、それぞれにこぢんまりとしているからこそ、非常に緻密にデザインがされているし、全体の調和は本当に驚くべき完成度。それぞれの機能はコの字型と一文字の二つの棟に納められ、中庭を囲む形で四角形に配置されている。

 この中庭は二階レベルに設けられていて、コミュニティの中心として役場、議場、図書館に囲まれている。中庭に面して回廊状に作られた役場の廊下は陽光と中庭の緑を取り込んで、非常に開放的。建築の角に設られた議場は、さらに一層分高い位置にあり、ボリューム的にも大きく、非常に天井の高い空間になっている。こちらは一転してほとんど直接光の入らない薄暗い空間で、厳粛な雰囲気を醸し出す。また、議場は外部から見ると不釣り合いに高く大きなボリュームの固まりとして、ランドマークの役割も担っている。開放的なコミュニティの中心と静謐な議場はアアルトが考える役場という機能を的確に表現しているのだと思う。

 

写真左:西側より見る。手前が「草の階段」
写真右:東側より見る。

 

写真左:開放的な役場廊下。
写真右:直接光の入らない議場。

 一方、外周部分は中庭から一層分下がっていて、外に向かって開かれた形で、店舗や住宅が並ぶ。中庭に対して、1階と2階は丁度反転したような構成となっている。これを破綻なく実現しているのが、盛土された一層分上がった中庭と、それを囲む奥行きの浅い空間だ。

 この建築はこうした全体の構成の巧みさだけではなく、窓辺の暖房とベンチ、廊下に設けられたちょっとしたコーナーの空間、扉のディテール、議場へ向かう通路の劇的な採光、議場の屋根を支えるユニークな木製複合梁、議場の窓の木製のルーバーなどなど、魅力的な細部にも支えられている。外部空間でも、芝生の生えた土の階段や、小さな噴水、藤棚を思わせるルーバー屋根などの楽しげな仕掛けと、緑があふれる親密な雰囲気の中庭が、建築の魅力を一層大きなものにしている。

 アアルトのキャリアの中では小さな建築ではあったが、彼はなみなみならぬ熱意をもって現場を監理したといわれている。また、完成後取り付けられたネオンサインを自分で弁償してまで外させたという逸話も残っている。これほど魅力と完成度を持った、そして幸福な物語を感じさせる建築は極めて希有なものだ。

2006 倉本琢

 

写真左:外部から見た議場。高くそびえる。
写真右:中庭と議場のボリューム。

 

写真左:廊下に設けられた、コーナー。
写真右:議場への通路の採光。

Saynatsalo Town Hal

Parviaisentie 9
FIN-40900 Saynatsalo
Finland

開館時間は月〜金の8:30〜15:30。7、8月は土、日の13:00〜16:00も開館。
週末は入館料4ユーロ。
図書館は月〜木の14:00〜19:00、金の11:00〜16:00に開館。
二つあるゲストルームに宿泊も可能。

連絡先
Saynatsalo Town Hall
Tel : +358-14-623-801
Fax : +358-14-623-802
E-mail : saynatsalo.aalto@jkl.fi

※注意
情報は2006年7月現在のものです。詳しくはアアルト財団のページhttp://www.alvaraalto.fi/info/guide/index.htm等で確認のこと。
フィンランド語のスペルにはウムラウト(母音の上の二つの点)をつける場合がありますが、便宜上省略しています。