パイミオのサナトリウム

Paimio Sanatorium and Housing Complex          1929-33

 パイミオの街の郊外、静かな松林の中に、アアルトの出世作ともいえる「パイミオのサナトリウム」は建っていた。来館者を迎えるように、メインエントランスを挟んで建物の両ウイングはハの字に開き、日本の感覚から言えば極端に薄く平べったくそびえる建物の圧迫感もこの配置が和らげられている。

 また、エントランスにかかる不整形の庇と、食堂棟の鮮やかな緑と黄色のオーニングが、モダニズム初期の几帳面なファサードにちょっとした彩りを添えている(色鮮やかなオーニングがオリジナルに忠実かは不明)。このあたりは病やサナトリウムでの生活に不安を抱きながら訪れる患者への気配りを感じさせる。アアルトはこの施設を設計するにあたって、「患者のためのデザイン」を標榜。医者の立場に立った設計が当たり前であった当時では画期的な試みであったようだ。

 結核の療養には欠かせない、日光ときれいな空気を患者が享受できるように、建物の南東端には外部のテラスだけが積層した部分さえあった。そして、十分な栄養を取るには欠かせない食堂は、大きな南面の窓、フラワーボックス、オーニングといった細やかなデザインでとても居心地の良い空間になっている。

 

写真左:エントランスを見る。
写真右:非常に細い妻側立面。

 

写真左:手前のガラス開口部はかつて外部テラスだった。
写真右:窓が大きく気持ちの良い食堂。

 館内の色彩や、家具やドアノブなども一つ一つ新たな視点でデザインされた。パイミオチェアは有名だが、洗面器や寝椅子、外部で休むときのための寝袋までもが、アアルトと夫人のアイノによって丹念にデザインされたとのこと。ここでの数多くの試行錯誤が、後のアアルト建築の多彩なディテールの基盤になっているといえるかも知れない。事実、ここで見た多くの家具やディテールは他の建築でも散見される。

 地震の無い国とはいえ、実に築70年という建築を愛情を持って保存し、なおかつ病院として現役で使い続けていることにまず驚く。外部テラスは南面した明るい病室に増築され、病室のドアや内装も変更されてはいるが(一室だけオリジナルの病室が保存されている)、そこには記念碑としてではなく、きちんと生きた建築として使っていこうという意思が感じられる。

 最上階に保存されているテラスからは、当時よりずいぶんと大きくなったという松と白樺の森が見渡す限り続いていた。森を見ながら、フィンランドの人たちのおおらかさと忍耐強さを何となく理解したような気持ちになる。

 なお、敷地内には同じくアアルト設計の従業員住宅が建っている。質素ながら魅力的なテラスハウスだ。

2006 倉本琢

 

写真左:オリジナルのまま保存されている病室。
写真右:オリジナルの家具と鮮やかな階段室。

 

写真左:最上階のテラス。
写真右:職員用のテラスハウス。

Paimio Hospital (現在は総合病院として使用されている)

Alvar Aallontie 275
FIN-21540 Preitila
Finland

6月〜8月の毎日、10:00と14:00出発のガイドツアーあり。
参加費一人4ユーロ。
念のため確認と予約を。

連絡先
Ms. Helena Kaartinen (Paimio Guide Club)
Tel : +358-2-474-5440
E-mail : helena.kaartinen@paimio.fi

※注意
情報は2006年7月現在のものです。詳しくはアアルト財団のページhttp://www.alvaraalto.fi/info/guide/index.htm等で確認のこと。
フィンランド語のスペルにはウムラウト(母音の上につける二つの点)をつける場合がありますが、便宜上省略しています。