マイレア邸

Villa Mairea          1937-39

 フィンランド西海岸の街ポリの郊外、豪邸が散見されるノールマルックの小高い丘の上、森に囲まれてマイレア邸は建っている。

 我々が訪れたのは朝。森の中の鳥の声を聞きながら小道を登っていくと、マイレア邸の南側ファサードが見えてくる。印象は劇的というよりは静かで端正な佇まい。木板張りとレンガ積みを白く塗り込めた外壁のコントラストが印象的。

 マイレア邸はアルテック社の出資者でアアルトのパトロンともいえる、マイレとハリーのグリクセン夫妻のための住居。北側にプールを備えた広い庭があり、南側に東西に長いのボリュームが置かれている。その東端は北側に食堂やキッチンなどの部分が張り出し、全体としてL字型のプランとなっている。現在もプライベートに使用されており、内覧可能なのは1階のパブリックスペースのみ。

 内部空間は、置かれている調度品、家具、美術作品と、アアルトによる凝りに凝ったディテールが重層的に連なっている。南側と暖炉のある北側の二つの居間はゆるやかに連続して、一段下がったエントランスへつながっている。居間とエントランスと食堂をゆるやかに分節するのは、日本の竹をモチーフにしたといわれる木製の丸棒。階段もこの丸棒で覆われまるで竹林のようであるのは、あまりに有名。西側のフラワールームは籐の家具と生い茂る植物でアジア的雰囲気が見られ、書斎の欄間は複雑なカーブを描いている。

 

写真左:アプローチから南側全景を見る。
写真右:南側のエントランス。

 

写真左:エントランスから暖炉のある居間を見る。
写真右:竹林のような階段室。

 

写真左:書斎欄間のディテール。
写真右:竹や籐を多用したフラワールーム。

 柱に巻かれた籐をはじめ、家具、建築ともに竹・籐などのアジア的な素材が用いら、フラワールームの扉や暖炉の後ろに引き込まれる大扉などで引き戸が活用されている。そして、空間を厳密に分節することなく、ゆるやかにつないでゆく手法など、日本建築を参照したと思われる部分は多い。

 しかし、実際にはそのような評価は、この建築のほんの一面でしかないように思う。伝統的なレンガ積みの壁や、木製の天井、そして不思議なへこみを持つ暖炉などにはフィンランドのアイデンティティーを強烈に感じる。そしてこの建築は鉄骨と鉄筋コンクリート造、という事実も忘れてはならない。籐が巻かれた装飾的な丸柱は実はコンクリートが充填された鋼管だ。

 内部空間の濃密さに圧倒されたのか、外部でも手元のディテールに目がいってしまう。母屋とサウナ小屋をつなぐ屋根付きのテラスは、石積みの暖炉や塀、無骨な丸太の樋、土が盛られ草が生えている屋根などフィンランドの民家の要素が強く出ている。南側の母屋と東側の屋根付きテラス、そして北側のサウナ小屋に囲まれた、プールのある庭は広々として気持ちが良い。

 2階ににも多くのディテールが盛り込まれているが、その印象は意外に薄い。それくらい、この建築には重層的な印象とディテールが詰め込まれていて、全体像をつかむのはなかなかむずかしい。

 これほど贅を尽くした住宅も少ないと思うが、その個々のディテールの完成度にも驚かされた。ディテールや装飾の持つ力を十二分に感じさせる建築であり、かなうことならもう一度訪れたい建築。

2006 倉本琢

 

写真左:暖炉のディテール。
写真右:籐の巻かれた丸柱、コンクリート充填鋼管。

 

写真左:プールのある庭。
写真右:2階の南側テラス、奥にはカーブした壁のスタジオが見える。

Villa Mairea

FIN-29600 Noormarkku
Finland

内覧は最低一週間前までに予約が必要。
入館料一人15ユーロ。ただし、5人未満は最低料金75ユーロ。

連絡先
Ms. Anna Hall (Mairea Foundation Curator)
Tel : +358-10-888-4460
E-mail : Anna.Hall@a-ahlstrom.fi

※注意
情報は2006年7月現在のものです。詳しくはアアルト財団のページhttp://www.alvaraalto.fi/info/guide/index.htm等で確認のこと。
フィンランド語のスペルにはウムラウト(母音の上につける二つの点)をつける場合がありますが、便宜上省略しています。