アアルト自邸とスタジオ・アアルト

The Aalto House           1934-36
Studio Aalto          1954-55、1962-63

 ヘルシンキ北部の高級住宅街にアアルトの自邸とスタジオはある。

 アアルトは当初ユヴァスキュラで設計事務所を開いたが、1927年にはトゥルク、1933年にはヘルシンキと、事務所を移転させた。アアルト自邸は当初自宅兼事務所として建てられ、最初の妻アイノと公私ともにパートナーとして生活した。

 自邸の外観は、お馴染みの白く塗り固められたレンガと濃い茶色の木板張りの二つのボリュームがL字型を作っているが、これは事務所スペースと住居スペースを明快に示している。事務所スペース内部は天井の高い吹き抜けがあり、階段と一体化した魅力的な暖炉が設けられている。この暖炉(階段)の背後に中二階の形で小さなアアルト本人のための書斎があり、階段を上がると小さなギャラリーがある。

 事務所スペースと一段下がった自宅の居間は一枚の大きな引き戸で区切られ、状況により開放できるようになっている。この引き戸は丁度外から見れば二つのボリュームの境界線にあたる。 エントランス、事務所、居間、書斎とそれぞれ段差が設けられていて、一続きの空間を分割し色分けしている。この構成はマイレア邸でも踏襲されているものだ。

 住居部分は1階が居間と食堂と台所、2階には小さなホール状の居間と各個室、浴室という構成になっている。各部屋は特に変わったデザインはされていないが、材料や家具には十分な注意が向けられたことが分かる。それぞれの家具は、アアルトとアイノ、そして二人目の妻となるエリッサによってデザインされたものがほとんど。

 浴室の洗面器はパイミオと同じだし、椅子もパイミオやマイレア邸で見られたものが多い。自邸が建てられたのは丁度パイミオとマイレア邸の間の時期にあたることも、関係しているだろう。2階からは小さいながらテラスに出ることができ、庭や遠方の景色を望むことができる。

 自邸で取り入れられたデザイン的言語は、より繊細にそしてより自由にマイレア邸で繰り返されることになる。アアルト財団の女性曰く「自邸はマイレア邸の実験だったのです。」。

 

写真左:アアルト自邸、北側より見る、白いボリュームは事務所部分。
写真右:アアルト自邸、南側より見る。

 

写真左:事務所部分の暖炉。
写真右:事務所部分と住居部分を分ける引き戸。

写真:アアルト自邸居間、奥が食堂。

 自邸から、数百メートルのところにスタジオ・アアルトはある。ハーバードでの教職を終え帰国後、事務所はこちらに移転した。その後アアルトが亡くなるまでの大規模なプロジェクトのほとんどがここで生み出された。2005年3月にリノベーションを終えたという建物は、現在はアアルト財団の事務所として使われている。

 増築が行われているので、今ははっきり分かりづらいが、スタジオの形態は、敷地の中に扇形の中庭を設けその余白が建築になるという構成をとっている。扇形の中庭は一目瞭然古代ギリシアの劇場をイメージさせ、階段状に作られいて、舞台に当たる部分には、背景となる独立壁も設けられている。いわば平面図がこの建築のおもしろさなのだが、土地の高低差を生かしたボリュームの配置は的確だ。

 扇形で削り取られた円弧の壁を持つ部分は天井の高いホールになっていて、今は模型や家具のプロトタイプの展示場所になっている。ここの壁面はぶっきらぼうで内装材が無いような(壁内部がむきだしのような)表情が選択されていた。トップライトと勝手口につながる階段がアアルトらしいデザインで目を引く。

 そのほかの部分は気持ちの良い執務スペースやライブラリー、食堂など、アットホームな雰囲気に満ちている。ここでも照明や家具はオリジナルがきちんと保存されていて、感心する。会議室にはトップライトのあるプレゼンテーション用の掲示板があって、これはなかなかおもしろい。

 マイレア邸やセイナッツァロの村役場に比べれば物足りない感じもするが、両方の建築共に自分たちのためのもので、構成はしっかりしているし、やりたいことは明確で、その上おそらくリーズナブルである。

 アアルト財団はここのほかムーラッツァロ実験住宅やユヴァスキュラのアアルト・ミュージアムも管理運営していて、しっかりとした体制ができあがっている。ヘルシンキにあるということで、この二つの建築は財団の大きな収入源にもなっていることだろう。でも、なによりフィンランド人と世界中(特に日本とアメリカ)の建築関係者のアアルト建築への愛情が、彼の残した一番大きな遺産かも知れない。

2006 倉本琢

 

写真左:スタジオ・アアルト、北側より見る。
写真右:スタジオ・アアルト、中庭に面した円弧の壁。

 

写真左:円弧の壁を持つホール内部。
写真右:ホール内部勝手口とトップライト。

写真:トップライトを利用したプレンゼンテーションボード。

The Aalto House

Riihitie 20
FIN-00330 Helsinki
Finland

火〜日の13:00、14:00、15:00、16:00、17:00に開館。
ただし冬期は13:00の回はナシ。
入館料15ユーロ。

連絡先
Alvar Aalto Foundation
Tel : +358-9-481-350
Fax : +358-9-485-119
riihitie@alvaraalto.fi

Studio Aalto

Tiilimaki 20
FIN-00330 Helsinki
Finland

火〜金の12:30のみ開館。
入館料15ユーロ。
最大20人まで。予約をした方が良い。

連絡先
Alvar Aalto Foundation
Tel : +358-9-481-350
Fax : +358-9-485-119
studio@alvaraalto.fi

※注意
情報は2006年7月現在のものです。詳しくはアアルト財団のページhttp://www.alvaraalto.fi/info/guide/index.htm等で確認のこと。
フィンランド語のスペルにはウムラウト(母音の上の二つの点)をつける場合がありますが、便宜上省略しています。